21.雲一つ無い青空
少年
少女
男
女
☆少年と少女は原色の衣装、男と女はモノクロの衣装。途中、二度入れ替わる
☆初めのシーンでは、モノクロの男の服のどこかに花がついている
暗転のなか、女の声がする
女 花を育てなさい。そして、ただただ生きなさい。この場所でただ育って、枯れて、また生まれて。ここは、そういう場所だから
ゆっくりと明転
男、立っていて、指示棒で何かをさしている
少年、女のひざで寝ている
少女、三角すわりで真面目に授業をきいている
男 はい、ここまでがドームの歴史だ。質問あるか?
少女 はい
男 なんだ?
少女 これからドームはどうなるの?
男 ……それは、まぁ、なんだ。お前たちがどう生きるかって話か?
少女 ……うぅん
男 知っての通りだが、明かりはあるし綺麗な水もでる。自給自足で間に合ってるんだから問題はない。あんまり深く考えるな。こいつみたいに
男、少年を引っ張り起こす
男 はい、おはよう。もう一度授業をやりなおそうか?
少年 大丈夫
男 だよな、飯にしよう
女、一度はけてバスケットと布をもってくる。四人でピクニックのように食事の準備をする
女 はい、じゃあ手を合わせて
全員 いただきます
サンドイッチのようなものを食べている
ゆっくりと暗転
抑えた声で話す
会話中、徐々に明るくなっていく
男と女、グラスで飲み物を飲んでいる
男 なぁ、もういいんじゃないか
女 ……なにが?
男 いつまで俺たちは生きているんだ
女 生きていられるだけ
男 いつまで生きていられるんだ
女 その時は、その時よ
男 いつまでその時を待つんだ
女 生きてるだけじゃだめなの?
男 違う
女 なにが
男 俺たちは生きてるんじゃない、死んでないだけだ
女 ……
少女、静かに入ってくる
女が先に少女に気づき、男が後から気づく
女 あら、目が覚めちゃったの?
少女 ……お酒?
女 そうよ、大人だからね
少女 えぇ、ずるい
女 すぐ大人になるからね
少女 うぅん
男 寝れないのか?
少女 怖い夢みちゃった
男 そうか
少女 白いおひげの生えた人がね、ベットで苦しそうにしてるの
女 そうなの?
少女 なにもできなくて、それをずっと見てるの
女 ……
女、少女を抱きしめる
女 怖かったね、じゃあ寝にいこっか
少女 大丈夫、ぎゅってしてもらえたから怖くなくなった
女 そう
少女、一人で帰る
女 覚えてるのかしら
男 なぁ、なんで
女 いいの。私たちはこうしていくしかないの。私たちのずっと前から、ずっと後まで
男 ……ふざけてる
女 真剣よ
男、酒を飲む
ゆっくりと暗転
明転
女と少年、座っている
少年 なんでそんなになるのに酒なんかのむの?
女 飲み過ぎなければ、楽しいのよ?
少年 でも飲み過ぎたんでしょ?
女 そうね
少年 やっぱり大人って馬鹿だなぁ
女 そう、馬鹿よ
少年 え?
女 ちょっと長く生きただけで、子供と変わらないわ
少年 そうなの?
女 そうよ、知らないこともいっぱいあるし、知る前に死んじゃうわよ、きっと
少年 いいの?
女 え?
少年 その知らないこと、知りたくないの?
女 うーん、大人はね
少年 うん
女 知りたくなくなっちゃうんじゃないかな
少年 えー
女 もういっぱい知っちゃってるから、困らないもの
少年 でも、もっともっと知らないこともあるんでしょ?
女 そうね
少年 じゃあおかしいよ。知らないままって悔しくない?
女 悔しい?
少年 だって、知らないことがあるって知ってるのに、それを知らないまま死ぬんでしょ?
女 そうね
少年 いやだよそんなの。大人ってわかんない
女 大人になったらわかるかもね
少年 わからなくていいけど
女 美味しいお酒も飲めるわよ
少年 飲み過ぎて勉強の時間に起きられない大人がいるからやだよ
女 その通りね
二人、笑っている
暗転
明転
男と少女。男は寝ている。少女は心配そうに見ている
男 ……もう大丈夫だぞ、吐かんぞ
少女 本当?
男 多分
少女 はぁ
少女、グラスに水を入れてもってくる
男 ありがとう
間
少女 ねぇ
男 うん?
少女 死ぬってなんなの?
男 なんだそれ
少女 図書室で読んだ
男 あー……そうか
少女 なんなの?
男 また授業でやるよ
少女 難しいことなの?
男 難しくないよ
少女 じゃあ教えてよ
男 難しくはないんだが……
少女、男をみている
男 わかったよ。簡単に教えてやる
少女 うん
男 ずっと寝てしまうことだ
少女 ずっと?
男 もう起きない
少女 なんで?
男 そりゃわからん。でも、起きないんだ
少女 ……
男 ……嫌か?
少女 うぅん、よくわかんない
男 だろ?
少女 うん。難しい
男 ずっと起きないから、土に埋めるんだ
少女 土に?
男 そう
少女 花が咲くの?
男 いや、花が咲くから埋めるんじゃなくてな
少女 なに?
男 まぁ、埋めないといけないんだ
少女 埋めなかったらどうなるの?
男 まぁ、埋めないといけないんだ。それに、埋めたらもしかしたら花が咲くかもしれない
少女 やっぱり咲くんじゃん
男 まあな
少女 でも埋めちゃっていいの? 本当に起きないの?
男 起きないよ
少女 寝てるのに
男 寝てるんだけどな、そのときは心臓が動いてないんだ
少女 それだけ?
男 ん?
少女 心臓が動かないだけで、起きられなくなるの?
男 そうだ。それに、一度止まるともう動かない
少女 ふうん、変なの
男 そうだ、変だな
少女 それで、いつ止まるの
男 ……いつだろうなあ。まぁ、お前らより俺らの方が早く止まるのは確かだ
少女 そっか
男 嫌か?
少女 嫌
暗転
うっすらとした明かり
男が女を下手から上手へとゆっくり運ぶ。女は死んでいる。少年と少女は泣きながら男のあとについていく。
少年と少女が男を上手から下手へとゆっくり運ぶ。男は死んでいる。少年と少女は顔を伏せている。
暗転
少年を演じていた役者が男を演じ、男を演じていた役者が少年を演じる。
少女の役者も同様に入れ替わる。
男と女の衣装は原色、少年と少女の衣装はモノクロ。女の衣装には、どこかに花がついている。
明転
女が授業をしている。少年と少女は授業を聞いている。男は少年と少女の横に座っている。
女 そんな訳で、このドームは常に安定した気温と気候が保たれているの
少年 エネルギーが切れることはないの?
女 えぇと、簡単にいうと、この星の真ん中からエネルギーをとってるから、エネルギーが切れるとしたらこの星が爆発するときよ
少年 えっ、それっていつくらい?
女 大体20億年後
少年 20お、く
女 まぁだから、問題ないわ
男 だからお前たちは、何も考えずに飯食ってクソして生きてりゃいいんだ
少女 ねぇ
男 なんだ、クソか?
少女 なんの為に生きるの?
男 ……なんの為?
少女 何もしなくてもご飯が食べれて、ずっと明るくて、暑くも寒くもなくて、私たちは何をしたらいいの?
男 何もしなくてもいい
少年 何も?
男 そうだ、何も、だ
少年 ……ふうん
ゆっくり暗転
会話の途中からゆっくり明るくなっていく
男と女、酒を飲んでいる
女 もう、やめたら?
男 ……飲まないでやってられるかよ
女、少し笑う
男 なんだよ
女 うぅん、あの二人も、もしかしたらおんなじ気持ちだったのかなって
男 あぁ……、よく二日酔いしてたな
女 うん
間
男 なあ
女 うん?
男 本当に、外に出たら死ぬのか?
女 何回め? 死ぬかわからないから出られないんでしょ
男 もしかしたら、生きられるかもしれないんだろ
女 もしかしたら、死ぬわよ。私達だけじゃなくて、あの子たちも含めて
男 ……
女 ね、そうやって生きていくしかないの。そうやって、ずっと生きてるのよ
男 生きてるんじゃなくて、死んでないだけじゃないのか
女 そうよ、それは、いけないの?
男 最悪だね
女 最高なのかもしれないわ
男 なにがだよ
女 尽きることのない食料に、常に雲一つない青空。もしかしたら、天国なのかもしれないわね
男 そう考えられたら、幸せなのか?
女 そう考えて、あの人たちも大人になったんじゃないかなって
男 そうだな
ゆっくり暗転
明転
下手から上手へ、女が男をゆっくりと運ぶ。男は死んでいる。その後ろに少年と少女が泣きながらついていく
上手から下手へ、少年と少女が女を運ぶ。女は死んでいる。少年と少女はうつむいている
少年を演じていた役者が男を演じ、男を演じていた役者が少年を演じる。 少女の役者も同様に入れ替わる。
男と女の衣装はモノクロ、少年と少女の衣装は原色。男の衣装には、どこかに花がついている。
暗転
明転
男が授業をしている。少年と少女が授業を受けている。女はうつむいて、少年と少女の隣に座っている。
男 と、ここまでが死だ。わかったか?
少年と少女、腑に落ちない表情
男 まぁ、そうだわな。体験するまではわからんだろうな
少年 どうやって体験するの?
男 ……まぁ、いつかは体験するんだ。
女 そう、ね
少女 お腹すいたー
少年 あ、俺も!
男 よし、じゃ、飯にするか
男、はける
女、少年と少女を抱きしめる。そのとき、二人に耳打ちをする。なにか言おうとする二人にしーのポーズをする。
男、シートとバスケットをもってくる。四人で食事の準備をする。
男 よし、じゃあ手を合わせて
全員 いただきます
サンドイッチのようなものを食べている
ゆっくりと暗転
薄暗い明かり
男と女、お酒を飲んでいる
男 これ(酒)だけが楽しみだな
女 ねぇ
男 うん?
女 外に出ない?
男 ……
女 このまま、生きてるか死んでるかわからないまま続けるの?
男 俺らだけだったらいいんだよ。そうじゃないだろ
女 あの子たちも、大人になって、諦めて生きるの? それって生きてるっていうの?
男 生きてるだろ、飯食って寝て、それの何が不満だよ
女 だって、私たちは、空を見たことがないでしょ
男 毎日みてるだろ
女 いつもいつも、雲一つない青空。あんなの空じゃない
男 じゃあなんだよ、ちゃんとした空をみたいからって理由であいつらを殺すのかよ
女 気候変動で外は人間が住める環境じゃない……、そんなの本当に信じてるの?
男 信じるもなにも、そうじゃないとここで生きてる理由がないだろ
女 なんの為に生きてるの
男 あいつらの為だよ
女 そうして、ここで何世代も何世代もずっと生きてきたんでしょ
男 ……
女 もう、いいじゃない
男 でも、あいつらは、まだ子供だ
女 そう、だから、ずっと死ぬ直前になるまで教えてくれなかったんでしょうね
男 それが、あいつらにとって一番なんだ
女 そう、それが大人になる時間なのよね、きっと
男 あぁ
女 ごめんなさい
男 ん?
女 私はあの子たちを大人にする
少年と少女が、入ってくる
男 お前ら!ずっとそこにいたのか
女 これで、私たちと同じように、この子たちは大人よ
男 ……
少年 外に行くと死ぬの?
男 そう、言われた
少女 それは本当なの?
男 本当かどうかなんてわからない。でも、扉をあけて毒が入ると全員死ぬ
少年 (少女に)ねぇ。死ぬの、こわい?
少女 わかんない
男 まだ大人じゃないからだ
女 大人でもわかんないわよ。死んだことないんだから
男 死ぬかもしれないんだぞ
女 生きるかもしれない
少年 空って、青色じゃないの?
男 いや、それだけじゃなくて……、白い、雲ってものが浮いてるかもしれない
少女 さわれるの?
女 それは、わからないわ。ここにいる大人は、子供だから
少女 子供なの?
女 あなたたちが知ってることと同じことしかしらないわ
少年 本当?
男 本当だ。あの、なにも浮かんでない青い空しかみたことない
少女 そっか、一緒だね
男 そうだ、一緒だ
女 そう、一緒だから、ここにいる四人は大人で子供で一緒だから、生きるか死ぬか四人で決めなきゃいけないの
男 ……
少年 わかった
少女、ゆっくりうなづく
暗転
明転
四人、舞台前面に並んでいる。少年と少女、楽しそうにしている。女、険しい表情をしてい
る。男、悲しそうに、服についた花を舞台上に捨てる
全員、舞台上から前へ進み、舞台を降りる。観客の顔を一通りみたあと、全員ゆっくりと上を見上げる。雲が浮かんだ空があるのか、暗雲が垂れ込めているのかは、観客にはわからない。
暗転
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